裁判例から学ぶ
マンションの漏水事故から
学び
マンションの漏水事故は,漏水の原因の調査が難しく,原因が判明した後の被害回復は法律問題が複雑であるために簡単に実現しません。
対策
漏水事故の発生後に管理組合(管理会社又は管理人)に報告し,管理規約の説明を受け,被害者,加害者,管理組合がそれぞれ加入している損害保険契約の有無・内容を確認することになります。
法律上の紛争予防の要点
漏水事故で被害者が救済されるためには,管理規約の整備と管理規約に応じた損害保険契約を締結しておくことが大事です。
紹介する裁判例
マンションで漏水事故被害にあった区分所有者の被害回復の方法について
東京高裁令和5年9月27日判決(結果:上告・上告受理申立て)
第1審の東京地裁の判決(令和4年12月27日)が変更されました。
マンションで漏水事故被害にあった区分所有者の被害回復の方法について
東京高裁令和5年9月27日判決(結果:上告・上告受理申立て)
第1審の東京地裁の判決(令和4年12月27日)が変更されました。
紹介した裁判例の結論(東京高裁の判決)
マンション(区分所有建物)の上層階の外壁(共用部分)の瑕疵が原因で生じた漏水事故について,漏水被害を受けた階下の区分所有者はマンション管理組合に対して,管理規約に特別の規定がない限り漏水被害の損害賠償の支払いを求めることができない。
マンション(区分所有建物)の上層階の外壁(共用部分)の瑕疵が原因で生じた漏水事故について,漏水被害を受けた階下の区分所有者はマンション管理組合に対して,管理規約に特別の規定がない限り漏水被害の損害賠償の支払いを求めることができない。
紹介した裁判例に対する当弁護士の意見
裁判例に対する評価
管理規約の解釈を拡大せず,管理組合の財産が守られる点が評価されますが,私は被害回復を重視する立場から紹介判決に疑問があります。
裁判例に対する評価
管理規約の解釈を拡大せず,管理組合の財産が守られる点が評価されますが,私は被害回復を重視する立場から紹介判決に疑問があります。
本件訴訟の原告と被告らの関係
原告は203号室の区分所有者ですが,漏水事故について上階の302号室の区分所有者と管理組合をそれぞれ被告にして,漏水によって生じた損害の賠償を求めました。
原告は203号室の区分所有者ですが,漏水事故について上階の302号室の区分所有者と管理組合をそれぞれ被告にして,漏水によって生じた損害の賠償を求めました。
漏水の原因
漏水事故の原因は,302号室の北側に設置されたバルコニーの外壁から浸水した水が外壁のコンクリート躯体部分の隙間ないし亀裂を伝わってマンションの3階床下のスラブに到達し,203号室の洋室の天井から漏水したものと認定(推認)されています。
バルコニーの外壁に隙間ないし亀裂があったことが民法717条の工作物の瑕疵に当たることは裁判所が認めています。
漏水事故の原因は,302号室の北側に設置されたバルコニーの外壁から浸水した水が外壁のコンクリート躯体部分の隙間ないし亀裂を伝わってマンションの3階床下のスラブに到達し,203号室の洋室の天井から漏水したものと認定(推認)されています。
バルコニーの外壁に隙間ないし亀裂があったことが民法717条の工作物の瑕疵に当たることは裁判所が認めています。
原告が損害賠償を管理組合に求めた法律上の理由
管理組合に,
① 民法717条の工作物の占有者責任
又は
② 管理規約による損害賠償の履行責任がある
という理由でした。
管理組合に,
① 民法717条の工作物の占有者責任
又は
② 管理規約による損害賠償の履行責任がある
という理由でした。
紹介した裁判例の判断内容
高等裁判所は,
① 管理組合は共用部分を管理するための団体であるが(区分所有法3条),本件の瑕疵がある部分に管理組合に占有はないので,民法717条の占有者としての工作物責任は負わない。
② マンション管理規約で共用部分についての管理・修繕を管理組合の負担で行うことが決められていても建物の資産価値下落分などの賠償義務まで規約により管理組合が負うことはない。
したがって,管理組合に①及び②の理由による損害賠償義務を被害者に負わないという結論です。
高等裁判所は,
① 管理組合は共用部分を管理するための団体であるが(区分所有法3条),本件の瑕疵がある部分に管理組合に占有はないので,民法717条の占有者としての工作物責任は負わない。
② マンション管理規約で共用部分についての管理・修繕を管理組合の負担で行うことが決められていても建物の資産価値下落分などの賠償義務まで規約により管理組合が負うことはない。
したがって,管理組合に①及び②の理由による損害賠償義務を被害者に負わないという結論です。
原審(第1審)の判断
原告の訴えに対して,原審は,
① 管理組合は浸水の原因となった共用部分を占有していないので民法717条の工作物責任はない
② 管理規約の解釈として,管理組合は共用部分の瑕疵による水漏れ事故について被害を受けた区分所有者に損害賠償責任を負うとしていましたが,紹介した第2審の裁判所は原審の②の結論を変更しました。
なお,上階の302号室の区分所有者が工作物である共用部分の所有者として持分割合に応じて損害賠償責任を負うという点には変更がありません。
原告の訴えに対して,原審は,
① 管理組合は浸水の原因となった共用部分を占有していないので民法717条の工作物責任はない
② 管理規約の解釈として,管理組合は共用部分の瑕疵による水漏れ事故について被害を受けた区分所有者に損害賠償責任を負うとしていましたが,紹介した第2審の裁判所は原審の②の結論を変更しました。
なお,上階の302号室の区分所有者が工作物である共用部分の所有者として持分割合に応じて損害賠償責任を負うという点には変更がありません。
当弁護士が疑問とした意見の理由
水漏れ事故被害者の原告の被害回復を困難にする点が疑問です。
紹介した高裁判決は,原告の管理組合に対する水漏れ被害の損害賠償請求をまったく認めず,302号室の区分所有者に対しては共用部分の共有者としての持分割合(206737分の7691)に応じた一部の額だけ損害賠償請求を認めました(法律上,可分債務を負います)。
紹介した裁判の結論によれば,原告が水漏れ事故で受けた損害を回復するためには302号室以外の区分所有者全員に損害賠償請求をする必要があります。しかし,多数の区分所有者を相手にして,個々に持分割合に応じた額の損害賠償をしてもらうことは現実的でありません。そのうえ原告の共有持分割合については水漏れ事故の損害請求は出来ないという結論です。
この結論は,マンションの管理組合には建物の共用部分に対する占有がない,共用部分の瑕疵を原因とする漏水事故の組合員に対する損害賠償について管理規約には管理組合が損害賠償の履行責任を明示する規定がないことが理由になっています。
マンションに住んでいる人が天井から予想もしない漏水があり生活が出来なくなる被害に遭遇した事案で(本件では4回も漏水があったとされています),ようやく漏水の原因が判明し,上階のバルコニーの亀裂からの浸水によるスラブからの漏水が原因と調査しても,その原因箇所が共用部分にあったからという理由で,区分所有者全員から各共有持分割合に応じて分割した額の損害賠償をそれぞれが簡単に応じると思えません。水漏れ事故と直接の関係がないと思っている区分所有者が共用部分の共有者であることを理由に工作物の瑕疵を理由にした無過失責任を持分割合に応じて負うと言われても支払いを納得するとはとても思われません。原告は改めてマンションの他の区分所有者に訴訟をせよということになります。
マンションは多数の区分所有者が生活をともにしている共同住宅です。
多数の集団間の利害の調整は簡単ではなく,そこに管理組合の果たす役割があります。共用部分の瑕疵による漏水事故に,管理組合には建物の管理責任はあるが占有はないので,民法717条の占有者としての責任はない,また管理規約を厳格に解釈して管理組合は建物の瑕疵による水漏れ事故の責任はないとすることでは被害の救済ができません。
本判決に対する最高裁の判断については,当弁護士は確認できていません。
本判決は漏水事故の原因となった共用部分に対する占有者がいないとする判断が前提ですが,管理組合が占有者の地位にあるとする考え方の裁判例もあります(福岡高裁平成12年12月27日判決)。
マンションの共用部分からの漏水事故について,今後の損害保険の利用や保険適用にも影響があり,管理規約の重要性にスポットがあった実務上重要な判断をした裁判所の判断ですので今後の行方に注目しています。
水漏れ事故被害者の原告の被害回復を困難にする点が疑問です。
紹介した高裁判決は,原告の管理組合に対する水漏れ被害の損害賠償請求をまったく認めず,302号室の区分所有者に対しては共用部分の共有者としての持分割合(206737分の7691)に応じた一部の額だけ損害賠償請求を認めました(法律上,可分債務を負います)。
紹介した裁判の結論によれば,原告が水漏れ事故で受けた損害を回復するためには302号室以外の区分所有者全員に損害賠償請求をする必要があります。しかし,多数の区分所有者を相手にして,個々に持分割合に応じた額の損害賠償をしてもらうことは現実的でありません。そのうえ原告の共有持分割合については水漏れ事故の損害請求は出来ないという結論です。
この結論は,マンションの管理組合には建物の共用部分に対する占有がない,共用部分の瑕疵を原因とする漏水事故の組合員に対する損害賠償について管理規約には管理組合が損害賠償の履行責任を明示する規定がないことが理由になっています。
マンションに住んでいる人が天井から予想もしない漏水があり生活が出来なくなる被害に遭遇した事案で(本件では4回も漏水があったとされています),ようやく漏水の原因が判明し,上階のバルコニーの亀裂からの浸水によるスラブからの漏水が原因と調査しても,その原因箇所が共用部分にあったからという理由で,区分所有者全員から各共有持分割合に応じて分割した額の損害賠償をそれぞれが簡単に応じると思えません。水漏れ事故と直接の関係がないと思っている区分所有者が共用部分の共有者であることを理由に工作物の瑕疵を理由にした無過失責任を持分割合に応じて負うと言われても支払いを納得するとはとても思われません。原告は改めてマンションの他の区分所有者に訴訟をせよということになります。
マンションは多数の区分所有者が生活をともにしている共同住宅です。
多数の集団間の利害の調整は簡単ではなく,そこに管理組合の果たす役割があります。共用部分の瑕疵による漏水事故に,管理組合には建物の管理責任はあるが占有はないので,民法717条の占有者としての責任はない,また管理規約を厳格に解釈して管理組合は建物の瑕疵による水漏れ事故の責任はないとすることでは被害の救済ができません。
本判決に対する最高裁の判断については,当弁護士は確認できていません。
本判決は漏水事故の原因となった共用部分に対する占有者がいないとする判断が前提ですが,管理組合が占有者の地位にあるとする考え方の裁判例もあります(福岡高裁平成12年12月27日判決)。
マンションの共用部分からの漏水事故について,今後の損害保険の利用や保険適用にも影響があり,管理規約の重要性にスポットがあった実務上重要な判断をした裁判所の判断ですので今後の行方に注目しています。
この記事を書いた人

- 近森土雄PROFILE
- 主な取扱分野
顧問先企業からの法律相談、交通事故事件、マンション法に関連する訴訟事件等