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弁護士の眼

裁判員裁判

| 2008.06.18 水曜日 | 弁護士の眼 |

我々弁護士の世界も世間と同様に専門化が進んできた。これまで一般の弁護士も普通に刑事事件の弁護人を引き受けてきたが、裁判員裁判は専門的な領域といわれている。

久しぶりに会った学生時代の友人から、この裁判員制度について聞かれた。企業に勤めて長く、いたってまじめにすごして来た人物であって、刑事事件については仕事上も私生活上でも関わった経験はなさそうである。にもかかわらず、的確に制度の内容を知っていたのには感心した。実施まであと1年を切り、マスコミなどに取り上げられる機会が多くなっており、この制度が国民に周知されてきた。

ところで、友人の質問は、問題があると思われる制度であるのに、何故、弁護士会はこの制度に反対しないのかというのである。内容の理解も伴っていた。法律の適用だけでなく刑の量刑まで裁判員が決める。多数決で結論を出す。控訴審では裁判員裁判でなく従来の裁判官だけの裁判になる…ことなどに、疑問があるという。彼は専門家と素人が決めることの区別がはっきりしないのは、基本的な問題であるとする。

国民の司法参加を実現し、現状の刑事司法を改革するために司法制度改革審議会で裁判員裁判が導入されることになった経緯を説明した。また、弁護士会は裁判員制度によって刑事裁判が一般の市民に理解されるようになるように取り組んでいることも付け加えた。しかし、友人は裁判員によって感情的な判断がなされるおそれがあるという。もっともな指摘であり、被告人の弁解を冷静に聞いてもらえる機会が保障されなくなる危険がある。

このやり取りを隣で聞いていた大学教授は、専門家ではなく、一般の人が判断することになると、論理や内容ではなく弁護人のプレゼンテーション能力で判決が決まることになると思うという。多くの人に話をして、難しいことを伝えるのを職業にしているのだから、経験に裏打ちされた意見である。そのとおりかもしれない。

ひるがえって、ほとんどの弁護士は一般の人が思うほど多数の前で話をする機会は多くない。これまでの裁判では証人尋問などを除くと、書面を作成するのが主な仕事であった。私などもいかに論理的な展開をして、説得的に文章をまとめるかに不十分ながら努力してきた。裁判員裁判が目指している短期間における口頭による審理では、書面は二の次で、弁護人が文字以外の道具も使い、全身で表現したものを裁判員に伝えることになる。当然、検察官も同じような準備をする。

このような裁判では、弁護能力をこれまでのような方法で獲得することが難しく、また弁護士に別の適性を必要とすることになる。この裁判は重罪事件だけで開始する。裁判員裁判の審理が実際にどのようなものになるか、ご注目をいただきたい。

2009年5月から実施される裁判員裁判の法廷は私も傍聴するつもりである。

近森土雄


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