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弁護士の眼

2010年3000人は本当にあり得ないのか?

| 2010.08.19 木曜日 | 弁護士の眼(大和克裕) |

以下の記事は平成22年6月13日に大阪弁護士会HPの「弁護士の放課後」に掲載された私の記事http://www.osakaben.or.jp/blog/posts/39/entry/330を、大阪弁護士会広報室の了解を得て再掲したものです。

大和克裕

 さて、一般の方にはタイトルを見ても何のことかわからないだろうと思いますが、司法試験合格者数のことです。
 2001年6月の司法制度改革審議会意見書や2002年3月の政府閣議決定が、司法試験合格者数を3000人程度とすることを目指すとした目標年度が今年なのです。
 しかし、弁護士業界では2010年3000人はもうあり得ないという見方が大勢を占めています。今年の日弁連会長選挙でも、両候補者の政策は2010年3000人があり得ないことを前提にしたものでした。
 その根拠は2009年の新試験合格者が司法試験委員会が目安とした2500~2900人を大きく下回る2043人であったことにあります。
 でも、本当に2010年の合格者が3000人となることはないのでしょうか?

  2010年3000人の最大の根拠は上記閣議決定です。閣議決定を変更するためには改めて閣議決定をしなければならないのですが、2002年3月の閣議決定は未だに変更されておらず現在も有効です。
 司法試験の合格者数を決定するのは司法試験委員会ですが、実際には法務省の事務方が複数の案を作り、そのうちのどれにするかを司法試験委員会で決議してもらうそうです。ですから、合格者数の原案を作成するのは検事とはいえ法務省のお役人です。
 お役人が「上の決めたこと」を杓子定規に守る傾向が強いことは皆さんもご承知のことでしょう。政府閣議決定は最も重要な「上の決めたこと」です。

 司法修習生を受け入れる側の最高裁判所はどうでしょうか。
 最高裁のHPに最高裁の予算が公表されています。よくわかりませんが、概算要求どおりの予算となったようです。これを見ますと、平成22年度の最高裁判所の予算概算要求では「司法修習生旅費 」の項目に「(1)招集帰任旅費(ア)新1年次 3000人」として計上されています。
 また「修習資金貸与金」として26億8500万円が計上されています。どういう計算でこの金額になったのかはわかりませんが、平成22年11月~23年3月までの5ヶ月分で、一人平均月25万5000円(配偶者や扶養親族が居るか、家賃を払っている場合の貸与額です)の支給として計算すると約2100人分となります。全員が貸与を受けるわけではないでしょうから、貸与率7割と考えるとこれも3000人を前提とした数字と言えそうです。
 予算ですから全部使う必要はないのですが、最高裁は3000人となる可能性を想定して予算要求し、財務省=政府がそれを認めたことは確かです。

 昨年の合格者数抑制は、合格者の質の維持を法務省が図った結果だというのが通説です。しかし、よく考えると下位合格者の質を維持することによって法務省が得られる利益はあまりありません。
 裁判官や検察官の新規採用数がそれぞれ100名程度でしかなく、そのため成績が良くなければ採用されないことは、今や業界の常識です。ぎりぎり合格した者が裁判官や検察官に採用されることはほとんどないといってよいでしょう。
 つまり、最高裁や法務省にとって、採用対象である成績上位者の質さえ維持されていれば、合格者が3000人になって下位合格者の質が下がろうが、自分たちには何も影響がないといえます。
 給費制で合格者を増やせば人件費が膨れあがることが合格者数が伸び悩んだ理由ともされていましたが、貸与制になればこの点はクリアされます(注1)。

 昨年3月に日弁連は「当面の法曹人口のあり方に関する提言」で数年間は現状の合格者数を目安とすることを提言し、2009年の合格者数はこの提言に合致するものでした。これはひねくれた見方をすれば、会長選挙を控えた日弁連執行部≒主流派に法務省が恩を売ったと見ることもできます。そう考えると、今度は「恩を返してね=閣議決定を守らせてね」となる可能性も、全くないとは言い切れないでしょう。
 そもそも、「法務省が2年続けて日弁連提言に沿った合格者にする=法務省は日弁連の言うがままだ」と見られる可能性がある事を、プライドの高い法務省の人たちは嫌がりはしないでしょうか?

 先日、新司法試験短答式試験の発表がありましたが、合格者は5773人でした。昨年から718人増えています。昨年は短答式試験合格者は395人ふえたにもかかわらず最終合格者は18人減ったので一概には言えませんが、合格者数増加の兆しと見ることもできます。

 正直なところ、私も3000人にはならないだろうと思っていて、2200~2300人と予想していますが、感覚的なもので根拠は全くありません。
 上に挙げたことを考えれば、2500人、場合によっては2800人にして「3000人程度でしょ」と開き直られる可能性は十分にあると見ています。

 これに対し日弁連の動きは鈍いです。理事会報告を見ると、4月の理事会で法曹人口問題検討会議を廃止して法曹人口問題を中心課題とする組織を作ることは決まったようですが、その後の動きが見えてきません(注2)。
 私は2年前に日弁連の法曹人口問題検討ワーキンググループの委員となり、2008年7月18日の日弁連「法曹人口問題に関する緊急提言」の作成に関わりましたが、その時には2008年の司法試験合格者数に影響を与えるためには7月中に何らかのアクションを起こさなければ間に合わないとの認識から、4月早々から活動を始め、7月上旬に提言案をまとめるまでに7回の会合を開いていました。
 今の時期に一から組織を立ち上げて、今年度の合格者数に影響を与える活動をするのは無理でしょう。
 日弁連が何もしなければ、法務省は自分のやりたいようにするでしょう。

 最終合格者発表は9月9日重陽の節句です。
私の懸念が杞憂に終わればいいと思っていますが、さて、どうなることやら。

(注1)
 今までの司法修習生は、みなし公務員として修習専念義務を課せられるかわりに年間300万円くらいの給料をもらっていました(給費制)。
 修習生の人数が増えたこともあり、今年の11月採用の司法修習生から修習専念義務はそのままで給費制を廃止し、その代わりに希望者には無利子で生活費を貸し付けし、修習終了後5年後から10年間で返済することとなっています(貸与制)。

(注2) 
その後6月18日の理事会で「法曹人口政策会議」が日弁連に設置されましたが、第1回の全体会議は8月21日だそうです。いずれにせよ、今年の合格者に影響を与えることは無理でしょう。


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