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弁護士の眼

弁護士の責任と日々の業務

| 2009.04.20 月曜日 | 弁護士の眼 |

弁護士は自由業であるといわれるが、「非行」があれば、弁護士会によって懲戒を受けることが弁護士法で定められています。外の世界からの評価は分かりませんが、弁護士の眼から見ると、懲戒を受ける件数は多く、なかには厳しすぎると思われる処分もあり、厳格な運用がされていると思います(当事務所のHPのリンク先に日弁連HPに統計資料があります。)。

懲戒申立ては事件当事者に限られず、誰もができることが周知され、最近では申立てが急激に増えてきました。
一昨年(2007年)1年間の弁護士に対する懲戒申立て件数は、日本全国で9580件であり、実に1万件に迫る数。前年の1367件からすると飛躍的な増加ですが、これには特別の事情があり、一刑事事件の弁護団に対する懲戒請求が8095件あったからで(同HP)、この例外を除いても、この10年間で申立件数は倍増しています。

申立てがされると所属弁護士会(私の場合は大阪弁護士会)の綱紀委員会で調査が始まり、申立てを受けた弁護士は「弁明書」という書面を提出しなければなりません。弁護士の業務や裁判手続きを誤解してなされる懲戒申立ても多いのですが、弁護士はこのような場合でもこれに対して「弁明書」を提出して応答しています。
申立てに具体的な内容がある場合には、争点となる事実の有無と懲戒事由の該当性が判断されますが、申立ての内容が事件の全経過に及んでいて特定されておらず、弁護士に対する不満や批判などの評価に終始しており、事実の主張が不明確であるときには、争点の把握すらできず、応答にも、判断にも困る場合があるのが実情です。
争点が分かりにくい理由として、専門家でなくても本人に申立てができる手続きであること、弁護士が懲戒されるのは「その他職務の内外を問わずその品位を失うべき非行があったとき」(弁護士法56条1項)とされていて、法文上も懲戒事由が一定の行為に限定されず、非行とされる範囲が広く漠然としていることなどが考えられます。
つまり、弁護士は違法行為については勿論のこと、会則違反行為、反弁護士会行為に限らず、また職務の内外を問わず、広く「非行」があれば懲戒されるのです。

伝統的に、「違法」がなくても「非行」があれば弁護士は懲戒処分を受けるとされていますが、この職業倫理は、弁護士業務が依頼者の生命、身体、自由、名誉、財産を守ることを目的しており(刑事事件ではより直接的ですが、)、依頼者の秘密を知り、これを守らなければならないという職務の性質から当然とされています。さらに、法律事務の資格を法律上で弁護士が独占していることもその理由に上げられるかもしれません。最近は弁護士でなくても、法律事務の一部を業務とする領域が広がってきましたが、それでも、弁護士の職責の重さは変わりません。

このように法律で「非行」によって懲戒処分を受けるとされるのは、弁護士だけでなく、裁判官(裁判官弾劾法2条2号)、検察官(検察庁法25条)、国家公務員(同法82条)、地方公務員(同法29条)なども同じです。ただし、弁護士法では「その他職務の内外を問わずその品位を失うべき非行があったとき」とされているのに対して、裁判官弾劾法では「その他職務の内外を問わず、裁判官としての威信を著しく失うべき非行があったとき」と、検察庁法、国家公務員法では「国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合」、地方公務員法では「全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合」とその規定の仕方が少し違っています。品位と威信、奉仕者の意味するものについて、比較検討をしてみるのも興味深いところではあります。

ともあれ、当事務所では、弁護士の職責の重さを自覚し、厳しい責任があることを肝に銘じて、日々の業務に取り組むことがまずは大事と考えています。このことは多くの弁護士と同様で、普通の弁護士に共通した感覚ですが、弁護士に対する一般的な見方とは少し違っているかもしれません。
最近は弁護士が活躍する場所も広がり、多様化していることから、色んな個性の弁護士の言動が目立つことも事実であり、外からの見方との弁護士間内部の弁護士倫理についての見方にギャップが広がっているようにも思います。

あまりにも申立が簡単にされるため、弁護士に対する濫用的な懲戒申立てが違法になる場合があることが認められ、理由のない懲戒を申立てた申立人に不法行為による損害賠償を命じた最高裁の判決も出ています(最高裁第三小平成19年4月24日判決)。
日本の弁護士は、国ではなく、弁護士会による懲戒処分を受けますが、その運用は他の資格を有する職業と比較しても厳格になされていると思います。むしろ、同僚弁護士としては、厳しすぎると思われる処分例もあるのではないか、最近は考えさせられることがあるのが実情です。
近森土雄


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