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弁護士の眼

法曹人口を決めるのは誰か。

| 2012.03.22 木曜日 | 弁護士の眼(大和克裕) |

 最近、弁護士業界では、日弁連会長選挙の争点となったことや日弁連が3月に提言を出したことから、またもや司法試験合格者数が話題となっています。
 弁護士の間では年間1000人か1500人に制限せよという意見が多いようですが、弁護士以外の方からは、「適正な法曹人口は市場における需給関係に よって決まるから、何人でも合格させて競争させたらいい。予め合格者数を決めるべきではない。」という意見がけっこう強いです。

 確かに、司法試験が単なる資格試験であり、試験において発揮された能力の絶対値にて法曹資格が与えられるのであれば、合格者数を予め定めることは不合理です。
 市場における需給関係で法曹人口が決まるのであれば法曹人口の目標値を定めることは無意味です。
 そもそも競争原理で市場の需給関係が決まるのであれば、司法試験そのものが不要という結論になります。実際に規制改革会議では、ある委員からそのような発言がされていました。

 しかし、戦後60年以上にわたって連綿と、法務省は予め決められた司法試験合格者数に従って合格者を決定し、法曹人口の総量は決められてきました。また 司法制度改革にあたっても、司法制度改革審議会や閣議決定は法曹人口や司法試験合格者数について明確な目標値を定め、政府がこれらの数を決めるという姿勢 を崩していません。
 つまり、政府は、司法試験は単なる資格試験ではなく、法曹人口は競争原理で決まるわけではないことを明言しているのです。

 これは、法曹人口や司法試験合格者数の決定は、弁護士だけでなく裁判官や検察官も含め司法権という国家権力を担う者について、どの程度の能力を持った人材をどのくらいの人数携わらせるかということであり、重要な国家政策であるという認識を政府がもっているからです。
 したがって、法曹人口や司法試験合格者数というものは、政府の方針によって政策的に決まるものであり、市場における需給関係や試験で発揮された能力の絶対値によって決まるものではありません。

 これに対して、法曹三者のうち、裁判という公的業務のみを行う裁判官及び検察官と、依頼者の私的利益の保護を図る弁護士を分離して考えるべきだという方がいます。
 しかし、このような主張をされる方は、どうも司法権の行使=裁判権の行使という捉え方しかしていないようです。
 裁判はあくまでも司法権を行使して法的紛争を解決するための一手段にすぎません。手術が治療の一手段にすぎないのと同様です。
 弁護士が法律相談でアドバイスをして紛争を解決すること、さらには契約書等をチェックして紛争を未然に防ぐことも、法的紛争の解決という司法権の行使の一手段なのです。

大和克裕


消えた年金記録と第三者委員会の役割

| 2012.03.12 月曜日 | 弁護士の眼(近森土雄) |

以下の記事は「MNO Office Letter 2012年2月号Vol.73」(発行人株式会社成岡マネジメントオフィス)に掲載された私の記事「弁護士の視点 №8」を加筆修正して、再掲したものです。

旧正月を迎え、明るいコラムにしたいので、新しい法制度の成功例をご紹介します。
 その一つとして、年金記録確認第三者委員会の設置があります。数年前に「消えた年金記録」問題が明るみになり、2007年に総務省に設置されました。記 録を管理する厚労省は信用できないとされ、外部に審査機関関を設けました。弁護士や社会保険労務士などの専門家が委員となり、独立・公平な審理を目指しま した。この間に20万件を超える申立てがあり、結論が出されました。
 消えた年金問題は、厚生年金加入者が社会保険料相当分を給与から源泉徴収されていながら、雇用主が徴収したお金を社会保険庁に納付していなかったことな どから生じています。加入者である民間人は国のすることなので、当然に納付した社会保険料を管理してくれていると思ったら、大違い。納付も、加入時期の確 認も企業任せで、実態と食い違っていました。
 この新制度によって、以前は救済されなかった障害年金受給者が受給できる可能性が生まれました。たとえば、退職後に事故に遭うなど身体の障害で働けなく なっても、加入期間など一定の要件を満たしていれば、障害年金がもらえます。ところが、たった1月分でも加入時期の記録に誤りがあると受給できません。そ のうえ、記録の誤りが発見されても、社会保険料の納付期限が時効(2年)になっていれば、雇用主は不払にした保険料の支払いができません。その結果、若く して不幸にも障害を負った加入者で要件を満たす保険料相当額を給与から天引きされていたケースでも、企業が納付していなかったために障害年金が受給できま せんでした。最近まで加入者に加入状況を知らされる機会が限られていたのに、
おかしい話です。
 このような不合理な法律の存在は、憲法の平等原則違反として裁判で争うしかありませんでした。しかし、第三者委員会の提案で、第三者委員会のあっせんが あれば救済されるようになりました。厚生年金保険の保険納付及び保険料の納付の特例等に関する法律の制定です。必要な法律が整備されて、制度がより公平に 近づいた例です。

近森土雄


交通事故と損害賠償

| 2012.03.6 火曜日 | 弁護士の眼(近森土雄) |

以下の記事は「MNO Office Letter 2012年1月号Vol.72」(発行人株式会社成岡マネジメントオフィス)に掲載された私の記事「弁護士の視点 №7」を加筆修正して、再掲したものです。

 交通事故は誰にでも起きる可能性があり、加害者と被害者で損害賠償の支払いを巡って紛争になることは珍しくありません。日本では、損害保険制度が整備されており、多くは保険会社による示談で終了します。
 深刻な事案は弁護士が加害者あるいは被害者の代理人となって、交渉、訴訟、その他の手続きでより適切な解決をすることになります。
 深刻化するのは、いろいろな要素がありますが、法的な問題で思い切った判断を求められる場合があります。今回は、少し難しいかもしれませんが、損害(逸失利益)をどうみるかが争点になった判例(最高裁平成5年3月23日大法廷判決)を紹介します。
 退職年金を受給中の元公務員の被害者が不幸にして事故で亡くなり、遺族である妻が遺族年金を受け取ることになりました。被害者が受け取るべき将来の退職 年金相当分を受け取れなくなったので、被害者を相続した妻が将来の退職年金相当分を加害者(損害保険会社)に請求したという事案です。
 原告の妻が遺族年金を受け取ることで、将来の年金相当分を二重取りすることになるのではないか、公平の見地から将来に受け取れる遺族年金相当分は損益相殺して損害から差し引くべきではないか、が問題になりました。
 裁判所は、遺族年金は①妻の死亡、または、②妻の再婚により、いずれも支給が終了するので、被害者本人の死亡によって支給が終わる退職年金とは終了時期 が異なることを理由に、(確定していない)将来の遺族年金については損益相殺しないとしました。損害は被害者が将来受け取れるであろう退職年金であり、そ こから妻の(将来の)遺族年金分を差し引かないというのが結論です(前記、最高裁判決)。
 将来の収入という不確定な事実について、第三者が評価するときに、何を損害とするのが公平といえるか、判断の難しい問題です。

近森 土雄


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