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弁護士の眼

交通事故と損害賠償

| 2012.03.6 火曜日 | 弁護士の眼(近森土雄) |

以下の記事は「MNO Office Letter 2012年1月号Vol.72」(発行人株式会社成岡マネジメントオフィス)に掲載された私の記事「弁護士の視点 №7」を加筆修正して、再掲したものです。

 交通事故は誰にでも起きる可能性があり、加害者と被害者で損害賠償の支払いを巡って紛争になることは珍しくありません。日本では、損害保険制度が整備されており、多くは保険会社による示談で終了します。
 深刻な事案は弁護士が加害者あるいは被害者の代理人となって、交渉、訴訟、その他の手続きでより適切な解決をすることになります。
 深刻化するのは、いろいろな要素がありますが、法的な問題で思い切った判断を求められる場合があります。今回は、少し難しいかもしれませんが、損害(逸失利益)をどうみるかが争点になった判例(最高裁平成5年3月23日大法廷判決)を紹介します。
 退職年金を受給中の元公務員の被害者が不幸にして事故で亡くなり、遺族である妻が遺族年金を受け取ることになりました。被害者が受け取るべき将来の退職 年金相当分を受け取れなくなったので、被害者を相続した妻が将来の退職年金相当分を加害者(損害保険会社)に請求したという事案です。
 原告の妻が遺族年金を受け取ることで、将来の年金相当分を二重取りすることになるのではないか、公平の見地から将来に受け取れる遺族年金相当分は損益相殺して損害から差し引くべきではないか、が問題になりました。
 裁判所は、遺族年金は①妻の死亡、または、②妻の再婚により、いずれも支給が終了するので、被害者本人の死亡によって支給が終わる退職年金とは終了時期 が異なることを理由に、(確定していない)将来の遺族年金については損益相殺しないとしました。損害は被害者が将来受け取れるであろう退職年金であり、そ こから妻の(将来の)遺族年金分を差し引かないというのが結論です(前記、最高裁判決)。
 将来の収入という不確定な事実について、第三者が評価するときに、何を損害とするのが公平といえるか、判断の難しい問題です。

近森 土雄


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